Yes, it's torture.

髪を切りに行ったのだった。
店に入ると5〜6人の先客がおり、店員たちは各々客に付いて仕事していた。店員は6人。内4人が女性で、男は若いのと中年の2人だけだった。おそらく中年の方は店長だろう。
若い方の男性店員が、「こちらにどうぞ」と俺をシャンプー台へ誘導する。
「なんだい、男かよ。」
内心若い女性店員にシャンプーされることを期待していた俺は、表情には出さなかったが大いに落胆した。
「しゃんぷー失礼しますぅ。」
俺の顔にはタオルが掛けられ、若者が慣れた手つきでシャンプーを始める。頭部に心地よい刺激を感じながら俺は、これが若い女性の手によるものだったらどんなに気持ちよかったであろうと、1人妄想を巡らせていた。
「失礼しもわっす。」
突然、俺の腕を鷲掴みにする者が現れた。いきなりの事で驚いたが、タオルのせいで誰だか分からない。
「ハンドマッサージいたしもわっす。」
店長でした。
店長は、俺の服の袖を無理矢理まくり上げ、腕になにやらクリームのようなものを塗りつけた。そして、ヌルッ、ゴリッ、ギューってな感じで俺の手をマッサージしだしたのだが、これがしこたま痛かった。あまりの力に俺は思わず顔を歪めてしまったのだけども、タオルが掛かっているため、若者にも、もちろん店長にも、俺の苦しみは伝わっていなかった。サービスでやってくれている手前、俺は無下に断ることもできず、店内にたった2人しかいない男性店員を独り占めにして、全身で彼らの愛撫を受けていたのだった。
「はあ、はあ・・・なぜおればっかり・・・他の客は皆、若い女性店員と楽しげに会話しているのに・・・」
壮絶な前戯の後、やっとカットが始まったのであるが、ここでもまた俺には店長が付くのだった。
「どのくらい切りもわっすか?」
「・・・半分くらい・・・」
「は〜いっ」
店長に頭をいじくりまわされる間、俺はずっと鏡越しに店内を見渡していた。するとたった1人、たった1人だけ、俺と同じ眼をしてる男性客がいた。疲れ果てた眼・・・
客の後ろに立っていた店員は、まぎれもなく『ジャイ子』でした。
「店長に気をとられ、女性店員にまで注意がいってなかったが、こんな女もいたのか。恐ろしい店だここは・・・」
俺は心底男性客に共感したのだった。
(省略)
カットが終わり、精算を済ませ、俺は早いとこ家に帰ろうと、店を出た。
「ありがとうございました」
後で女の声がした。明らかにジャイ子の声だった。振り返ったら食われる、そう思って俺は急いで道路を渡り、走った。
店の近くに一台の車が止まっていた。中にはヘルメットをかぶった制服姿の男たち。覆面パトカーである。じっとさっきの店を見つめている。俺はなんかもう胸がいっぱいになって、大急ぎでその場を離れた。
家の近くまで来たとき、道端で話し込む女子中学生の姿を見てやっと俺は落ち着いた。
「やった。帰ってきたんだ。」
女子中学生が突然叫んだ。
「涙あり!」
そういえば今日はどんと祭だったなあ・・・